
弥生時代の卑弥呼の頃の食生活と現代人の食生活では、
噛む回数が卑弥呼の頃の6分の1しか噛んでいないといわれています。噛むことは食事をとる以外にもよいことがあります。8020運動の一環として平成12年12月に設立された「8020推進財団」は、“噛む8大効果”を広く社会に訴求するために、「
ひみこのはがいーぜ」という標語をつくり、噛むことの大切さを呼びかけました。イラストは、学校食事研究会のHP「月刊 学校の食事」にあるものです。無料配布されているので、今回お借りしました。
説明写真にも載っていますが、
ひ :肥満を防ぐ(よく噛まないと、過食につながる)
み :味覚の発達(よく噛むことで、食べ物の味が出てきて味覚の発達になる)
こ :言葉の発音はっきり(よく噛むことで、顎の成長や歯並びがよくなる)
の :脳の発達(脳の血流がよくなり認知症の予防にも役立つ)
は :歯の病気予防(唾液が多く出て来て、カリエス(むし歯)予防につながる)
が :がん予防(唾液に発がん物質を30秒つけておくと毒消しの効果があります)
いー:胃腸快調(噛むと食べ物が細かく粉砕され、消化吸収をよくします)
ぜ :全力投球(歯並びと運動能力には関係があることがわかっています)
の頭文字をとっています。少し詳しく触れていきたいと思います。
まず「
ひ」ですが、よく噛む事が肥満予防につながることは、糖尿病の治療としての食事療法として効果があり、科学的に証明されています。言葉をお借りするなら、「満腹感は、おなか(胃)が感じるのではなく、脳が感じるものです。食事をしてから胃から脳の満腹中枢に信号が伝わるまでに20分の時間がかかります。この20分間の食べ方で、食べ過ぎを防ぐことができます。よく噛んで、ゆっくり食べることで、満足感を得やすくなるのです」とあります。日本では厚生労働省が平成21年に噛ミング30(カミングサンマル)を提唱しています。内容はひとくち30 回以上噛むことです。
「ひ
みこのはが
いーぜ」の「
み」と「
いー」は一緒に説明する方がいいでしょう。それには唾液について説明していきます。よく噛む事で唾液が多く出ます。この唾液に含まれているアミラーゼという酵素はでんぷんを糖に分解してくれます。でんぷんは多糖類とも呼ばれていますが、糖に分解しないと体の中ではエネルギーとして利用できません。噛む事で唾液が出てきますし、よく噛むことで食べ物も粉砕され細かくなることで、消化吸収の助けになります。そしてでんぷんを利用できる糖に変えます。そしてここで、同時に違う事も起きています。細かくなり混ざり合う事で、色々なものが唾液に混ざり合い、溶け出します。この唾液に混ざることで、舌などにある味蕾と呼ばれる味が分かる組織に味を伝えることが出来ます。
話の流れで「
は」に進みます。むし歯(カリエス)予防は磨くことが一番に挙げられますが、唾液も活躍します。唾液の中にある免疫物質などは細菌の増殖を抑えます。むし歯(カリエス)の原因菌はミュータンス菌ですが、むし歯(カリエス)はこのミュータンス菌による感染症です。この増殖を抑える役目が唾液にはあります。しかし、唾液が口の中をまんべんなく巡回してくれないと、活躍することは出来ません。そのため夜間唾液が少なくなった時、これ幸いにとミュータンス菌が悪さをし、むし歯(カリエス)は夜間に進行します。少し話がずれますが、夜寝る前に良く歯を磨く事はとても意味があります。昼間は唾液も出ますので、むし歯(カリエス)の予防効果があります。
唾液の効果はまだあります。今度は「
が」に進みます。唾液には免疫や抗菌作用があります。リゾチーム、ペルオキシダーゼ、免疫グロブリン、ラクトフェリンなどを含んでいます。体の中にも免疫はありますが、よく考えると食べる前に唾液で体に害になるかもしれないものを駆逐しておくのは、実はとても理にかなっています。動物も傷をなめているのを見たことあると思いますが、あれは唾液の免疫や抗菌作用で殺菌しているのです。そして発がん物質も唾液と混ぜる事で、抑えられます。それに活躍していると言われているのが、ペルオキシダーゼです。本来は過酸化水素を除去する酵素です。過酸化水素水は活性酸素と関係が深く、この活性酸素は体内にはある程度必要ですが、過剰になることは問題になるようです。活性酸素が多すぎると、がんや生活習慣病の誘発に関与すると言われています。それを唾液が抑えることで、発がん物質の抑制につながる効果があります。
「
の」の説明ですが、食べる事は楽しみの一つであり、生きるためにも必要です。ところが噛む事は意外と複雑な動作であることを自覚されている人はいないでしょう。まず感覚が鋭敏です、砂粒を噛んだだけで動きが止まるのは誰しも経験したことがあるでしょう。食べ物を唾液と混ぜるにしても、ただ噛んでいるだけではなく、舌や頬が協力します。たまに噛む事はあるにしても、舌を噛まないように気を付けて噛む人はいないでしょう。味の濃いもの薄いもの、熱いもの冷たい物、傷んだ食材、何か不自然な味なども感じ取ります。これが自分の歯で噛み砕けるものなのかも判別します。これだけ細かい作業を無意識に行っています。指示を出しているのは当然脳です。噛む事で脳の前頭前野という部位が活性化することも分かっています。
「
ぜ」の説明ですが、歯並びと運動能力ですが、難しい内容です。そのために顎の位置と体位に少し触れます。ご自分の頭を右に傾けてみると、自然に右側の奥歯が強く当たります。左を強く噛む事も可能でしょうが、しっくりきません。筋肉の関係上そうなります。右を強く噛んでいる状態で、今度は左に頭を傾けてみると、いつのまにか左で強く噛んでいます。頭は体の上についていますが、顎はその頭にぶら下がっています。しかも、2つの関節で動く骨は顎だけです。顎は頭の位置に大きく影響を受けるのは必然です。体が動けば頭の位置もずれます。体をスムーズに動かすには、スムーズに動く歯並びは重要になります。さらに、力を出すために食いしばる事に耐えうる丈夫な歯が必要となります。
最後の「
こ」ですが、顎の成長は子供の時期になりますので、成人した方には効果は無いと思います。それと簡単に説明できる内容ではないので、省略したいと思います。「ひみこのはがいーぜ」を元に説明してきましたが、噛むことで健康増進につながる事は間違いありませんが、硬いものを噛むという意味ではない事を付け加えたいと思います。硬いものを噛むのではなく、噛む回数を増やすことが大切なことです。器具も道具も不要で、1日3回は出来る健康法なので、実践してみてください。